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広島高等裁判所松江支部 昭和32年(ネ)68号 判決

控訴人 原告 米村芳子

被控訴人 被告 松江市

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す、被控訴人が控訴人に対してなした昭和三〇年度市民税県民税年額金一、四七九円の決定の無効であることを確認する。被控訴人は控訴人に対し金三六九円およびこれに対する昭和三〇年一〇月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払いせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決ならびに金員の支払部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人の指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠関係は原判決の事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

なお控訴代理人は当審の昭和三二年一一月一日の口頭弁論期日に同日附控訴状再訂正申立書に基き本件被告松江市を松江市長に変更する旨申立てた。

理由

控訴人は原審で被告を松江市から松江市長に変更する旨申し立てたが、原審はその判決理由中で、かように「変更しなければならないいわれはない」としてこれを認めなかつたところ、控訴人はさらに当審で右申立を繰り返すけれども、その趣旨はさらに新たな申立をするのではなく、原判決の右申立を認めなかつた裁判の当否について控訴裁判所の判断を求めるにあるものと解すべきであるから(民事訴訟法三六二条参照)まずこの点について検討する。

行政処分無効確認の訴は本来その権利主体を相手方とすべきであつて本件市民税の賦課処分無効確認の訴についても、控訴人は松江市を被告とすべきであるから、被告を松江市として右賦課処分により納付した分の返還を求めていた従来の訴に右無効確認の訴を追加すれば足り、ことさらに被告を行政処分庁である松江市長に変更しなければならない理由はないのである。従つて控訴人は右訴において被告とすべきものを誤つたものということはできないから、右被告変更の申立は行政事件訴訟特例法第七条の要件を具備しない不適法なものとして却下を免れない。従つて原審がこれを許容しなかつたことは相当である。

なお本訴請求中県民税に関する部分はその権利主体である島根県を被告とすべきものであつて、松江市は被告となる適格を有しないものであるから右訴は不適法のものといわねばならない。そしてその理由の詳細は原判決の理由を引用する。

控訴人は昭和三〇年一月一日現在は松江市に居住していたところ、同年五月六日米子市に転住し、かつ昭和三〇年中には所得がなかつたのに、松江市長は控訴人に対し同年度の市民税および県民税の賦課処分をしたが、該処分は無効であると主張し本訴において右賦課処分の無効確認を求めるのであるが、右請求のうち第一期分に関する部分につき確認の利益がなくまたその主張自体理由のないことについては原判決の理由一の(二)四の(一)ないし(三)を引用する。

そうすれば右賦課処分により既に納付した三六九円の返還請求もまた失当であることは当然である。

以上の理由により本訴請求中控訴人の松江市に対して市民税の賦課処分の無効確認および既納税金の返還を求める部分はその理由がないのでこれを棄却すべく県民税賦課処分の無効確認を求める部分は不適法として市民税賦課処分の無効確認請求のうち第一期分に関する部分は確認の利益がないものとしていずれもこれを却下すべきである。

よつて右同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 藤田哲夫 竹島義郎)

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